最初の生命は熱い環境において誕生したのではなかった

【タイトル】Some Like It Hot -----But First Life Did Not

【著者】Fazale R. Rana

【文献】FACTS FOR FAITH, QUARTER 2-2002, ISSUE 9

松崎英高(箱崎キリスト福音教会牧師)、ティモシー・ボイル(つくばクリスチャンセンター宣教師、物理学学士号、神学博士)共訳

熱い環境における生命の起源説を検証する

セドリックとウィニーはとうとう、家を購入するために十分なお金を貯めました。彼らは、近隣のより古風な落ち着いた場所で、ビクトリア朝風の別荘 のオーナーになることを夢見ていたのです。彼らは、ウィニーの職場や彼らの二人の幼い子供たちが入ることになる学校の近くに、家を見つけることを希望し ていました。

セドリックとウィニーは、快適な地域に住みたいと願っています。同様に、地球上のほとんどの生物は、“快適な”環境の中に存在しています[1]。 ほとんどの生命は、5~40℃の温度に生存しています。地球の表面に生息する生命は、一般的に一定の大気構成(窒素80%、酸素20%)と気圧(1気圧)を必要としています。水棲の生命は、高レベルに溶けている酸素と適度な塩分と中性に近いpHが決まって必要です。ほとんどの場合、生命は平凡な条件 を厳密に必要とします。しかしながら、ある生物は極限的な条件を好みます。

セドリックとウィニーとは違って、ハンスはハイチの暑くて湿気が多い丘が好きです。電気や室内の水道とガスの配管は、セドリックとウィニーにとっ ては必須であるでしょうが、ハンスにとってはさほど生活を快適にするものではありません。現代的な利便さはほとんどの人々にとって生活をかなり快適にし ますが、ハンスはそのようなものがない生活が気に入っているのです。セドリックとウィニーにとって、ハイチは住むには辛い場所であることが明らかになる でしょうが、ハンスはその極限的な環境で元気にやっていけます。

過去数10年間にわたって、地球上の最も過酷な環境を調査していた科学者たちは、セドリックやウィニーではなく、ハンスに似ている生物を発見して きました[2]。例えば、研究者たちは海底にある熱い噴火口で、単細胞生物を発見しました。これらの噴火口は、350℃の間欠泉を噴き出します。海底で の水圧は、約300気圧あります。(この気圧では、水の沸点は400℃です。)これらの間欠泉の周囲にいる単細胞生物は化学エネルギーを使用して、噴火 口の周囲にコミュニティを形成するもっと複雑な生物のために食物連鎖をしっかりと支えています。

さらに、科学者たちは南極大陸のヴストーク湖上に4kmもの厚さに凍りついた氷の層の中に単細胞生物を発見しました。死海やグレート・ソルト湖を 研究している調査員は、高い塩分濃度でよく生育する単細胞生物を分離しました。科学者たちは、火山活動の衰退した地域の熱くて、強酸性の土壌からさえ も、単細胞生物を採取したのです。この火山活動性の土壌は、100℃以上の温度があり、文字通り沸き立っています。

科学者たちは、これらの著しく頑丈な生物を、字義通りには“極限を愛するもの”という意味の“好極限性微生物(extremophiles)”と 呼んでいます。(付録の好極限性微生物の紹介を参照のこと。)ある好極限性微生物は比較的複雑ですが、大部分は単細胞微生物です。それらは表面的にはバ クテリアに似ていますが、科学者たちは別に分類しています。(付録の古細菌の項を参照のこと)

対照的に、(セドリックとウィニーのように)生存のためにもっと“快適な”条件を必要とする生物は、中温菌と呼ばれます。多くのバクテリアは中温 菌、すなわち、20~40℃の穏やかな条件を必要とする生物です。しかし、わずかな種類のバクテリアは60~80℃の温度で生存する好極限性微生物です。

好極限性微生物は研究者たちを魅了しています。ハンスのように、それらは生命の生息限界の新記録に挑戦します。好極限性微生物が厳しい環境でよく 生育することを可能にする生理学や生化学について研究することによって、基礎的な生物学が発展します。

また、好極限性微生物は商業的な可能性もかなり持っています。好極限性微生物から分離された分子は、高温、高圧、高塩分濃度、あるいはpHの低い ものと高いものとの両極端を含む産業的な過程での有用性が評価されつつあります[3]。油を分解する好極限性微生物は、いつか油漏れを洗浄するために使 用されるかも知れませんし、イオン化や放射線に耐性のあるものは核汚染地区での細菌による中和を促進するかも知れません[3]

好極限性微生物と生命の起源

基礎科学での関心や商業的な利用に留まらず、生命の起源を説明するために好極限性微生物はますます重要な役割を引き受けつつあります。進化論的な パラダイムに縛られた何人かの生命の起源の研究者たちは、生命の始めについての自然主義的な説明が直面している、手におえない多くの問題について、好極 限性微生物が道を提供するだろうと期待しています[4]

過去10年間の研究の進歩は、(無生物からの生命の)自然発生にますます不利に働いています[5]。地球化学的な証拠は、38億6,000万年前 に地球上に生命が存在したとします。最も古い岩石は39億年前と年代決定されました。この時より以前は、地球は生命には適さない十分に溶解した状態で存 在していました。初期の条件は生物が存在する以前の前駆分子の生成を促すものではなく、またこの結論と一致していることですが、地球化学的な記録には生 物が発生する母体となった前駆スープが存在したという証拠がないことを、生命の起源の研究者たちはしぶしぶながらではあるが認めています。地球化学と化 石の記録は、地球上で最初に出現した生命の化学的な複雑さを際立たせています。総括すると、以上の観察は、地球が遠い昔に生命を維持することができるよ うになるやいなや、化学的に複雑な生命が出現したことを示しています。

生存を脅かすような場所において力強く生育する単細胞生物の発見は、生命は39億年前より以前に地球の極限条件下で現われることがあり得たのだ、 と何人かの研究者たちに思いつかせました。この考えは、生命の起源のための自然主義的な説明を守り続けるための逃げ道を提供するのです[6]

セドリックとウィニーにとっての近隣の理想的な環境は、常に静穏で快適であったわけではありませんでした。過去には、まだずっと住みにくかった同 じ地域に、ハンスのような過酷な自然環境愛好者が居住した時があったことは、極めて有りうることです。それと同様に、ある生命の起源の研究者たちは、先 ず好極限性微生物が出現して、その後に中温菌が続いたのだと提案しました。

生命の起源シナリオの提唱者たちは、DNAの配列の進化論的解析がそれを支持していると主張します。この研究では、進化論に基づく仮説的な生命の 系統樹の根元に好極限性微生物を置きます[7]。好極限性微生物は地球上で最も古くて原始的な生物であるように思えます。深海の熱水の状況をモデル化し て、高温で化学的に厳しい環境を模倣した研究室での実験は、アミノ酸やペプチドやその他の分子は厳しい条件下でも生成され得ることを示しています[8]。これらの反応は、好極限性微生物が出現するまでの生命の起源の過程において、早い段階に必須のものとされるのです。

生命の起源問題と関連して、好極限性微生物は他の太陽系に生命を探す情熱の炎に油を注いでいます。生存が困難な地球の環境で力強く生育する好極限 性微生物の能力が、惑星間や星間で見出される生存が困難な条件においても生存を可能にさせると、研究者たちは推測します[9]。例えば、南極大陸の氷 点下の氷中にいた微生物の発見は、木星の周回軌道にある氷の世界であるエウロパで生命を調査するように科学者たちを促しました[10]。さらに、地表下 2.8kmほどの深さに好極限性微生物のコミュニティが存在することが発見されたことから、生存が困難な火星の地表下に生命が存在するかも知れないと、 何人かの研究者たちは考えています[11]

好極限性微生物の生命起源説に有利に思えるこれらの状況証拠にもかかわらず、他の科学的データはその説に不利なのです。これら最近の研究の光に照 らせば、大げさに宣伝された新しい好極限性微生物の発見は、自然主義的な生命の起源にとって、必ずしも新たな証拠を積み重ねるものではありません。無視 できないハードルが、行く手にはなお立ち塞がっています。低温を好み(寒冷を好む微生物)、深い地表下にある生物圏による生命の起源シナリオにとっての 障害もそれには含まれます。これらのシナリオについては、論文においての将来の議論を待たなければなりません。現在は、好熱性の生命の起源に限定された 課題に注目が集まっています。

 好熱性(好熱性細菌)の生命の起源シナリオは、(1)自然史、(2)生化学、(3)化学という三つの分野で圧倒されるような困難に直面している のです。

生命の起源の自然史

郡庁舎の記録は、将来近隣になるであろう地域の歴史についてセドリックとウィニーに多くを知らせることができます。その記録は、誰が最初にその家 を建てて住んだのかを教えてくれます。同様に、初期の地球の歴史は、地球の最初の居住者についての洞察を、研究者たちに与えます。地質学的、地球化学 的、あるいは化石の記録は、地球の最初の生命が好極限性微生物であったのか、それとも中温菌であったのかを決定するために研究者たちが使用できる手掛か りを含んでいます。

地質学的記録

生命の起源の研究者たちは、生命の始まりに導く出来事を39億年前よりもずっと古い年代、すなわち、地球環境が熱かった年代にまで押しやることに よって、生命の準備段階のために使用できる時間を引き伸ばすことを望んでいます。好熱性、あるいは高温性の生命の起源は、自然過程説にとっては是が非で も必要な時間をいくらか引き伸ばしてくれるでしょう。スタンフォード大学とNASAのAMESセンター(訳注:航空海事技術衛星センター)の科学者たち は、39億年前よりもどれくらい古い年代に、地球の表面温度が好熱菌の必要とする温度である100℃付近に落ち着いたのかを見積もることによって、この 可能性を検証しました[12]

地球を熱くて、大規模に溶解した状態にした最も重要な出来事は、地球形成直後のほぼ火星大の天体の激突によるものでした[13]。それが地球と激 突した時に、衝突物の核と地球の核とが融合しました。その衝突から生じたより軽い成分は、地球の周回軌道に吐き出され、直ちに月を形成するために合体し ました[14]。この衝突の直後には、地球上の表面温度は珪土(砂)を蒸発させるほどに高温でした。最終的には、地表は液体上の水が存在できる温度にま で冷やされました。

スタンフォード大学とNASAのAMESの研究者たちは、月の形成時に起こった激突から冷却される時に、地表温度は、10万年~1,000万年間 だけ好熱菌が生存できる範囲で持続したと、結論付けました。それは、好熱菌説にとっては悪いニュースでした。生命が自然の過程で出現するには、それはあ まりにも短過ぎるのです。さらに、この時間枠は、好熱菌の生命起源シナリオに有効な時間を過大評価しています。45億年前から39億年前に地球に衝突し た物体は多数あったのですが、月形成時の衝突を唯一のものと見なしているからです[15]。ところが、それぞれの衝突が地球を高温に戻し、地表や地下に ある岩を溶かして、好熱菌が生存できる最高温度以上に地表温度を上げました。

仮に、39億年前より以前に好熱菌がどうにか出現したとしても、それはその時点まで生存し続けることができなかったでしょう。39億年前には、地 球は、天文学者たちが後期重爆撃と呼んでいる出来事に遭遇しました[16]。太陽系の引力の撹乱が、膨大な数の彗星や小惑星を地球や内惑星(訳注:水 星、金星、地球、火星)に激しく降らせました。これ以前の衝突と同様に、この爆撃は全ての海洋を蒸発させ、地表の岩を溶かし、存在したあらゆる生命を根 絶したことでしょう。

初期の地球史は、単に好熱菌による生命の起源が成り立つために十分な時間を許さないだけではありません。自然過程による生命の起源の時間を39億 年よりも過去に遡らせることを頼みとした研究者たちの試みは、失敗しています。

地球化学的、および化石の記録

地質学的記録と同様、地球の最も早期の生命の地球化学的、および化石の記録は、好熱菌による生命の起源を支持することができないのです。太古の海 底にあった熱性の噴出孔で形成された32億年前の岩石の中で発見された糸状のフィラメントが、好熱菌の最古の残存物です[17]。恐らく、これらの微生 物は、生存のために必要とされる有機化合物を合成するために、エネルギー源として硫黄を使用しました。これらの好熱菌の早期出現にもかかわらず、地球化 学と化石の証拠は、中温菌微生物がそれらに先んじて出現したことを示唆しています。デンマークとオーストラリアの科学者は、約35億年前と年代決定され た岩石から、古代の硫化物の堆積物を発見しました。化学分析によると、硫酸を還元する微生物が硫化物の堆積物を産生したことが示唆されました。硫化物を 含む岩石の地質学的な特徴は、これらの堆積物を産生する微生物が60℃以下の穏やかな温度で生きていたことを示しています。これらの硫酸を還元する微生 物は中温菌であって、好熱菌ではありません。[18]

生命の起源の研究者たちは、光合成をする細菌が35億年ほど前に存在していたし、恐らくさらに38億6,000万年前まで遡ると考えています [19]。光合成をするシアノバクテリア(ラン藻、藍色細菌)に類似している細菌は、35億年前の岩石に残存物の化石を残しています。さらに、生命の起 源の研究者たちは、炭素から合成される物質である炭質を単離しました。それは、38億6,000万年前に生物学的な反応があったことを意味します。その 炭素化合物の化学的な側面は、光合成をする微生物がこれらの物質を産生したことを強く示唆します[20]。同様に、化学的研究と遺伝子配列の比較は、光 合成の出現を35億年前よりも以前に置きます[21]。古代の硫酸を還元する細菌のように光合成をする細菌は、穏やかな地表の条件でよく生息します。

地球化学的、および化石の記録は、好熱菌による生命の起源の正当性を確認することができません。それどころか、地球史的記録は、中温菌は好熱菌が 出現する以前に、長い間定着していたことを証明します。自然史の記録は、好熱菌による生命の起源に反対するのです。

生化学的な挑戦

自然史が熱い生命の起源シナリオに疑問を投げかけたように、好熱菌の生化学によって強いられる制約は、高温における生命の起源をありそうもないこ とにします。一連の研究に基づいて、フランスの科学者たちのチームは、伝統的な進化の系統樹とその系統樹の根元に好熱性微生物を置くことに疑問を投げか けました[22]。進化論的な観点により研究をしているこれらの科学者たちは、生命の系統樹と称されているものの最も根元に近い枝を明確にするために、 収集された生物の膨大な情報の中からDNA配列の比較を行ないました。改善された方法を適用することにより、好熱菌ではなくて、中温菌が生命の系統樹の 根元にあると、彼らは結論付けました。幾分議論の余地はまだ残っているのですが、これらの結果は、進化論的系統樹の根元に好極限性微生物を長年にわたっ て位置づけたことには、明確な根拠が欠けていることを示唆しています。もし、好極限性微生物が系統樹の根元にはないのなら、科学者たちがそれらを生命の 最初の細菌であると見なすことはできません。

さらに、研究の初期段階において、生存に不利な環境で好極限性微生物が力強く生育するための生化学的な違いを、研究者たちが理解するために重要な 前進がありました[23]。そのような生化学的な違いの一つ(転移RNA(tRNA)とリボゾームRNA(rRNA)分子のグアノシンとシチジンの増 加)は、微生物を高温で成長できるようにさせるのです(脚注の“RNA構造と成長温度”を参照のこと)。

彼らの研究は、生命の起源の分野ではまだ広く受け入れられているわけではありませんが、フランスの別グループの研究者たちは、最古の世界共通の先 祖(LUCA: the Last Universal Common Ancestor)を推定するために、GCの含有量と至適温度の関連を使用しました[24]。これらの研究者たちは、全ての生命はLUCAから進化した と仮定して、LUCAのGC含有量を見つけるために、過去に遡りつつ生命の主な系統のrRNA配列を比較しました。彼らの分析では、仮説上のLUCAの rRNAにおけるGC含有量が、好熱菌的なライフスタイルを支持するには余りにも低すぎることが指摘されました。進化論的なパラダイムに従って言い換え れば、LUCAは好熱菌ではなくて中温菌であったはすなのです。

進化論的観点から見ると、生化学的な証拠は、地球の最初の生命は中温菌であって、好熱菌ではないことを指し示しています。この発見は、地質学や地 球化学や化石の記録とも合致するものなのです。

化学的挑戦

さらに、生命の起源問題の化学的側面を研究している科学者たちは、熱い生命の起源シナリオについての重要な課題を発見しました。深海の熱水噴出孔 を模倣した研究室での実験をしている研究者たちは、生命と関連のある分子を生成することには成功したのですが、これらの条件では、殆どの分子が速やかに 破壊されることを認めたのです。

著名な化学者であるスタンレー・ミラーと彼の研究チームは深海の熱水噴出孔の条件と好熱菌にとっての理想的な温度での、生体分子の安定性を研究す るために、複数の実験を行ないました[25]。研究チームは、350℃の水環境がアミノ酸の半減期をたったの数分にすることを割り出しました。250℃ では、糖の半減期は数秒と計測されました。ポリペプチドの半減期は、どの実験においても数分から数時間と計測されました。同様に、RNAは250℃では 数分以内、350℃では数秒以内で加水分解されます。言い換えれば、生命の建築ブロックが、熱い条件下で寄せ集められた時、急速にバラバラに崩壊するの です。

ミラーの研究グループは、より穏やかな温度でありながら、なおも好熱菌に適した温度である100℃において、RNAの構成要素であるA、G、U、 Cの安定性を測定しました。AとGの半減期は1年、Uの半減期は12年、Cの半減期は19日と計測されました。ミラーの研究は、生命の誕生に導く化学的 経路が開始されるために必要な化合物は、生成された直後に破壊されただろうことを指摘します。それゆえに、深海の熱水噴出孔や好熱菌に適した比較的穏や かな温度を持つ環境において、これらの化合物が蓄積することはあり得ませんでした。

さらに、ニュージーランドの科学者たちは、RNAにおける三次元的構造の高温での安定性の特性を示すことによって、好熱菌による生命の起源の可能 性を調べました[26]。これらの研究者たちは、生命の起源としての“RNAワールド”が広く受け入れられているので、RNA分子に注目することを選び ました。このシナリオは、最初の生体分子としてRNAを提案します。のちに、そのRNAワールドは、生命の化学に持ち込まれて、化学進化的プロセスに よってDNAや蛋白質にまで発展したと、生命の起源の研究者たちは言います。

ニュージーランドの科学者たちは、RNA分子は好熱菌に適した温度では折り畳まれずに存在し、三次元構造を失っていることを示しました。安定した 三次元構造がないなら、RNA分子は機能的な能力に欠けています。その研究チームは、高温でいくらか折り畳まれる特徴は保持しているそれらのRNA分子 は、構造的な特異性を失い、多様な三次元的な形状に速やかに移行することを観測しました。これらの科学者たちは、さらにもう一つの問題にも注目しまし た。すなわち、RNAの三次元構造を安定化させるマグネシウム・イオン(Mg2+)は、またRNAの化学的な分解をも促進するということです[27]

結論

好極限性微生物は、生息するのに適した環境を構成するのは何かということについての伝統的な見解に挑戦します。生命の起源の研究者たちは、生命の 始めを自然主義的に説明できることを支持するために、このように生息適性を拡張することを利用します。一見すると生存を脅かすと思われる環境で、力強く 生育する生物の存在は、生命が初期の地球の熱くて生存を脅かす条件で出現し得たことを示唆するのだと、これらの研究者たちは主張するのです。

しかし、積み重ねられてきた科学的証拠は、好熱菌による生命の起源シナリオを支持しないのです。高温の条件下での生命の始まりに必要な条件は、余 りにもわずかの時間しか存在しませんでしたし、生命を絶滅させる(天体の)衝突によって、繰り返し中断させられました。地球化学と化石の証拠は、地表に 生息した中温菌が、好熱菌が出現する以前に長い間存在していたことを示唆します。同様に、DNA配列の生化学的な特徴も、好熱菌がいわゆる系統樹の根元 を形成したという長く続いた伝統の正当性を疑わせるのです。化学的な研究は、生化学的なデータや地球化学的及び化石の記録の両方を裏付けるのです。生体 分子は、熱水の環境では直ちに分解され、蛋白質とDNAとRNAの複雑な三次元的な構造は、水の沸点付近の温度では不安定であることが証明されました。 生命の起源の教科書的解説にはこのような障害が次々に明らかとなってきたのです。それらを避けようにするために、研究者たちは好熱菌による生命の起源に 訴えることを試みるのですが、何の助けにもなりません。結局のところ、(セドリックとウィニーのような)中温菌は、近隣の環境が彼らのために用意される と直ぐに、地球の最初の住民となったのです。ハンスのような過酷な自然環境愛好者はその後に入って来たのです。

《付録1:古細菌(Archaea)》

1977年以前には、科学者たちは、細菌を同一のグループとして見ていました。1977年に、イリノイ大学の微生物学者であるカール・フーセは、 細菌が根本的な生化学的相違を伴う明白な区別のある二つのグループからなることを証明しました。フーセは、細菌を二つの分かれたドメインとして、 Archaea(古細菌)とEubacteria(真正細菌)にグループ分けしました。科学者たちは、ほとんどの好極限性微生物をArchaea(古細 菌)というドメインに割り当てました。ほとんどの細菌は、Eubacteria(真正細菌)というドメインに属します。ドメインは、生化学的な分類によ る階層構造では比較的に新しいレベルのものです。一つのドメインは複数のグループ化されたギングダムからなっています。三つのキングダムが古細菌 (Archaea)を構成しています。その三つとは、euyarchaeota, crenarchaeota, korarchaeotaです。全てのドメインのメンバーは、根本的な生化学的特徴を共有しています。フーセはまた、三番目のドメインである Eukaryaを提案している。それは、原生動物、真菌、植物、そして動物というキングダムを含んでいます。

参考文献:John L. Howland,“The Surprising Archaea: Discovering Another Domain of Life,”New York, Oxford University Press, 2000, 19-48

《付録2》好極限性微生物の紹介

科学者たちは、生存に不利な環境で生息する微生物を好極限性微生物と呼んでいます。それは、以下のようなタイプに分けられます。 好熱菌…50~70℃の温度で生育する典型的な好熱性のものです。好熱菌は、温泉や海底の火口の中やその付近でよく生育します。 超好熱菌…80~113℃の温度で繁殖する超好熱性があります。(水の沸点は、通常の大気圧下では100℃)超好熱菌は、概して80℃以下の温 度では培養できません。 好冷菌…寒冷な温度を好みます。南極海で発見されたpolaromanos vacuorataは4℃で最もよく繁殖し、12℃以上の温度では生存することができません。(水は、通常の大気圧下では0℃で凍る。) 好酸性微生物…火山の水溜りや熱い海底の火口で見つけられました。pH 2以下という酸性条件下でよく生育します。(血液は、7.4のpHを持つ。食酢のpHは約3である。)顕著な例として、picrophilus oshimaeとpicrophilus torridusは、pHが0の条件で生息します。 好アルカリ性微生物…アルカリ性の条件下で繁殖します。アルカリ性の湖や砂漠で発見されたこれらの細菌は、10以上のpH値で成長します。(家 庭用の漂白剤のpH値は10である。) 好塩菌…塩湖や鉱山で見出されます。これらの微生物は、20~30%の塩分からなる環境に住んでいます。 好高圧性微生物…成長のためには高圧を必要とします。大変深い海洋深度で発見されたこれらの微生物の幾つかは、地表における大気圧(1気圧)よ りも100倍の気圧が生存するためには必要です。MT41と命名された、最初に発見された好高圧性微生物は、300~700気圧で最もよく生育します。

幾つかの好極限性微生物は、二重に過酷な条件下で生存するという、二重生活をしています。例えば、多くの好熱菌は好酸性微生物を兼ねているし、多 くの好アルカリ性微生物はまた好酸性微生物でもあります。好熱好酸性微生物であるsulfolobusacidocaldariusは温泉の熱い酸性の 水に住んでいます。好塩好アルカリ性微生物であるnatronobacterium pharaonisは、高い濃度の炭酸ナトリウムを含むアルカリ性の湖に住んでいます。

《付録3》RNA構造と成長温度

tRNAとrRNAは、RNA(リボ核酸)分子の二つの特殊化したタイプです。RNAは鎖状の分子であり、細胞のメカニズムによって、アデノシン (A)、ウリジン(U)、グアノシン(G)、シチジン(C)という4つのサブユニット分子が互いに結合させられて生成します。rRNAとtRNAの三次 元構造は、それらの機能のために決定的に重要です。弱い物理的な相互作用が、それらの三次元構造を安定化させています。4つのRNAの構成要素である G、C、A、Uは、水素結合という安定化に働く相互作用を仲介します。GとCの組み合わせでは、3つの水素結合が形成されます。AとUの組み合わせで は、2つの水素結合が形成されます。それ故に、高温の環境でよく生育する微生物は、GCのより高い含有量とAUのより低い含有量を持ったtRNAや rRNAを使用しています。このことが、安定化に働く相互作用の数を増やすことになります。tRNAやrRNAは、これらの付加的な安定化に働く相互作 用がなければ、好熱性の環境では折り畳まれることはないでしょう。(訳注:RNA分子が折り畳まれないと、生理機能を持つ三次元構造できず、生体分子と して役に立たない。)

参考文献:Lubert Stryer, Biochemistry, 3d ed. New York, W. H. Freeman, 1988, 731-66

引用文献

1 Michael Gross, Life on the Edge: Amazing Creatures Thriving in Extreme Environments (Reading, MA: Perseus Books, 1996), 1-13.

2 Gross, 15-59.

3 Lynn J. Rothschild and Rocco L. Mancinelli,“Life in Extreme Environments,”Nature 409 (2001): 1092-101; Peter Gwynne,“Exremozymes: Proteins at Life’s Extremes,”Chemistry (October 1998), 16-19; Elizabeth Pennisi,“in Industry, Extremophiles Begin to Make Their Mark,”Science 276 (1997): 705-6

4 Gross, 56-59

5 Fazale R. Rana and Hugh Ross,“Life from the Heavens? Not this way…,”Facts for Faith 1 (Q1, 2000), 11-15.

6 Fazale R. Rana,“Origin-of-Life Predictions Face Off: Evolution vs. Biblical Creation,“Facts for Faith 6 (Q2, 2001), 41-47; Fazale R. Rana,“Early Life Remains Complex,”Facts for Faith 7 (Q4, 2001), 7; Hugh Ross,“New Evidence for Life’s Rapid Origin,”Connections vol. 3, no. 1 (2001), 1.

7 Karl O. Stetter,“The Lesson of Archaebacteria,”in Early Life on Earth: Nobel Symposium No. 84, ed. Stefan Bengtson (New York: Columbia University Press, 1994), 143-51.

8 Otto Kandier,“The Early Diversification of Life,”in Early Life on Earth: Nobel Symposium No. 84, ed. Stefan Bengtson (New York: Columbia University Press, 1994), 152-60.

9 For example see Claudi Huber and Gunter Wachtershauser,“Activated Acetic Acid by Carbon Fixation on (Fe, Ni)S Under Primordal Conditions,”Science 276 (1997): 245-47; Claudi Huber and Gunter Wachtershauser,“Peptides by Activation of Amino Acids with CO on (Ni, Fe)S Surfaces: Implications for the Origin of Life,”Science 281 (1998): 670-72; J. P. Amend and E. L. Shock,“Energetics of Amino Acid Synthesis in Hydrothermal Ecosystems,”Science 281 (1998): 1659-62; Sarah Simpson,“Life’s First Scaling Steps,”Science News 155 (1999): 24-26; Ei-ichi Imai et al.,“Elongation of Oligopeptides in a Simulated Submarine Hydrothermal System,”Science 283 (1999): 831-33; George Cody, et al.,“Primordal Carbonylated Iron-Sulfur Compounds and the Synthesis of Pyruvate,”Science 289 (2000): 1337-40.

10 Rothshild and Mancinelli, 1092-101

11 For example see J. Jouzel et al.,“More Than 200 Meters of Lake Ice Above Subglacial Lake Vostok, Antarctica,”Science 286 (1999): 2138-41; John C. Prisco et al.,“Geomicrobiology of Subglacial Ice Above Lake Vostok, Antarctica,”Science 286 (1999): 2141-43; D. M. Karl et al.,“Microorganisms in the Accreted Ice of Lake Vostok, Antarctica,”Science 286 (1999): 2144-47; Christopher F. Chyba and Cynthia B. Phillips,“Possible Ecosystems and the Search for Life on Europe,”The Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 98 (2001): 801-4.

12 James K. Fredrickson and Tullis C. Onstott,“Microbes Deep Inside the Earth,”Scientific American (October, 1996), 68-73.

13 N. H. Sleep et al.,“Initiation of Clement Surface Conditions on the Earliest Earth,”The Proceedings of the National Academy of Science, USA 98 (2001): 2666-72.

14 R. M. Canup and E. Asphaug,“Origin of the Moon in a Glant Impact Near to End of the Earth’s Formation,”Nature 412 (2001): 708-12; V. Wiechert et al.,“Oxygen Isotopes and the Moon-Forming Grant Impact,”Science 294 (2001): 345-48.

15 Peter Ward and Donald Brownlee, Rare Earth: Why Complex Life is Uncommon in the Universe (New York: Springer-Verlag, 2000), 229-34.

16 Ward and Brownlee, 48-50.

17 B. A. Cohen et al.,“Support for the Lunar Cataclysm Hypothesis from Lunar Meteorite Impact Melt Age,”Science 290 (2000):1754-56; Richard A. Kerr,“Beating Ip on a Young Earth, and Possibly Life,”Science 290 (2000): 1677; Hugh Ross,“New Evidence for Life’s Rapid Origin,”Connections 3, no. 1 (2001),1.

18 Euan Nisbet,“The Realms of Archaean Life,”Nature 405 (2000): 625-26; Birger Rasmussen,“Filamentous Microbial in a 3,235-Million-Year-Old Volcanogenic Massive Sulphate Reduction Desposit,”Nature 405 (2000): 676-79

19 Yanan Shen et al.,“Isotopic Evidence for Microbial Sulphate Reduction in Early Archaean Era,”Nature 410 (2001): 77-81.

20 J. William Schopf,“Microfossils of the Early Archean Apex Chert: New Evidence of the Antiquity of Life,”Science 260 (1993): 640-46; Manfred Schidlowski,“A 3,800 Million Year Isotopic Record of Life from Carbon in Sedimentary Rocks,”Nature 333 (1988): 313-18; Manfred Schidlowski,“Carbon Isotopes as Biogeochemical Recorders of Life Over 3.8 Ga of Earth History: Evolution of a Concept,”Precambrian Research 106 (2001): 117-34; S. J. Mojzsis et al.,“Evidence for Life on Earth before 3,800 Million Years Ago,”Nature 384 (1996): 55-59.

21 Christopher House et al.,“Carbon Isotope Analysis of Individual Microscopic Fossils: A Novel Tool for Astrobiology,”presented at the 12th International Conference on the Origin of Life and the 9th Meeting of the International Society for the Study of the Origin of Life, July 11-16, 1999, University of California, San Diego.

22 Jin Xiang et al.,“Molecular Evidence for the Early Evolution of Photosynthesis,”Science 289 (2000): 1724-30; David J. Des Marais,“When Did Photosynthesis Emerge on Earth?”Science 289 (2000):1703-5; G. C. Dismukes et al.,“The Origin of Atmospheric Oxygen on Earth: The Innovation of Oxygenic Photosynthesis,”The Proceedings of the National Academy of Science, USA 98 (2001): 2170-75;Rana,“Early Life Remains Complex,”7.

23 Philippe Lopez et al.,“The Root of the Tree of Life in Light of the Covarion Model,”Journal of Molecular Evolution 49 (1999): 496-506; Herve Philippe and Patrick Forterre,“The Rooting of the Universal Tree of Life is Not Reliable,”Journal of Molecular Evolution 49 (1999): 509-23; Henner Brinkmann and Herve Philippe,“Archaea Sister Group of Bacteria? Indication from Tree Reconstruction Artifacts in Ancient Phylogenies,”Molecular Biology and Evolution 16 (1999): 817-25.

24 Gross, 61-97; John L. Howland, The Surprising Archaea: Discovering Another Domain of Life (New York: Oxford University Press, 2000), 67-88.

25 Nicolas Galtier et al.,“A Nonhyperthermophilic Common Ancestor to Extant Life Forms,”Science 283 (1999): 220-21; Gretchen Vogel,“RNA Study Suggests Cool Cradle of Life,”Science 283 (1999): 155-56; G. Arrhenius et al.,“Origin and Ancestor: Separate Environments,”Science 283 (1999): 792; Massino Di Giulio,“The Universal Ancestor Lived in a Thermophilic or Hyperthermophilic Environment,”Journal of Theoretical Biology 203 (2000): 203-13.

26 Stanley L. Miller and Jeffrey I. Bada,“Submarine Hot Springs and the Origin of Life,”Nature 334 (1988): 609-11; Matthew Levy and Stanley L. Miller,“The Stability of the RNA Bases: Implications of the Origin of Life,”The Proceedings of the National Academy of Science, USA 95 (1998): 7933-38.

27 Vincent Moulton et al.,“RNA Folding Argues Against a Hot-Start Origin of Life,“Journal of Molecular Evolution 51 (2000): 416-21.

28 Tomas Lindahl,“Irreversible Heat Inactivation of Tranfer Ribonucleic Acid,“The Journal of Biological Chemistry 242 (1967): 1970-73.

Updated: 2006 年 11 月 02 日,04:41 午後

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