長い寿命:老化の生化学における新しい発見は「アダムは全部で九百三十年生きた。こうして彼は死んだ。」創世記55という聖書の記事を支持する!

【タイトル】Long Life Spans: “Adam Lived 930 Years and Then He Died” New Discoveries in the Biochemistry of Aging Support the Biblical Record

【著者】Fazale R. Rana, Hugh Ross and Richard Deem

【文献】Facts for Faith, 5, Q1,(2001), 19-27

松崎英高(箱崎キリスト福音教会牧師)、ティモシー・ボイル(つくばクリスチャンセンター宣教師、物理学学士号、神学博士)共訳

「アダムは全部で九百三十年生きた。こうして彼は死んだ。」と創世記5章5節に述べられていますが、人間が900歳以上も生きたという主張は、多 くの人々にはまさに馬鹿げたことに聞こえることでしょう。創世記5章の長寿の記述は、これらの人々がおおっぴらにキリスト信仰を探求することの妨げに なっています。900歳という人間の寿命を受け入れることができないので、懐疑論者やその他の人々は聖書を神の啓示ではなく、人間によって創作された信 憑性のない神話であると見なします。

創世記5章の長寿に対する懐疑論はもっともなことです。恐れられていた多くの疾病を克服するためになされた医学や医療技術におけるこれまでの進歩 は、驚くべきものでしたし、これからも進歩は続くでしょう。西洋社会では広く普及した健康産業を利用できますし、ほとんどのアメリカ人にとっては、栄養 摂取は生命の維持に必要であるためにするのではありません。それでも、アメリカ合衆国における平均寿命は、80歳以下です。前世紀を通して、人々はます ます人間の寿命が伸びることを期待し続けました。しかし、ほんの僅かの年数が伸びただけでした。このような事実に照らして、創世記5章に書かれている長 い寿命が真実であるなどと、どのようにして想像すらできるでしょうか。もう一つの躓きの石が、創世記6章3節にあります。そこでは、神が人の寿命を約 900年から約120年に短縮するために介入したと宣言されています。(なぜ、後に神が人の寿命を短くするだけのために長い寿命を許されたのかという議 論に関しては、ヒュー・ロスの「創世記の謎を解く」を参照のこと)考えられる最長の寿命が120歳であることは、最近のデータと調和してさえいるのです が、人間の寿命の急激な短縮は、懐疑論者にとってはもう一つの障害となります。人間の寿命のこの劇的な短縮は、どのようにしたら科学的につじつまが合う のでしょうか。

老化に関する生化学の最近の発展は、これらの手に負えないと思える問題の答えを提供します。科学者たちは、老化を引き起こす、あるいは老化に関連 する幾つかの異なった生化学的なメカニズムを明らかにしてきました。細胞内の化学の微妙な変化が老化の原因となり得ます。ある場合では、それによってほ とんど50%も寿命を伸ばすことが期待できます[1][2]。これらの発見は、神が長い寿命を許したり、その後で人間の生化学をちょっと“微調整する”だけで人間の平均寿 命を変えたりすることができる無数の方法があることを示唆します。また、ベラ超新星に起因する宇宙線に関連する老化の生化学的研究の進歩は、創世記5章 の長寿やノアの大洪水の時に人間の寿命が短縮されたことに科学的な信憑性を与えてくれます[3][4]

活性酸素種

フリー・ラジカルによる老化説は、老化の原因を説明するための有力な説です[5]。フリー・ラジカルとは、構造的な立体配置の一部(訳注:分子やイオンの電子構造の一部)として1個かそれ以上の不 対電子を持つ化学種です。電子は対を作ることによって安定化しますので、フリー・ラジカルの不対電子は、フリー・ラジカルを不安定で、とても反応性に富 み、化学的な破壊を引き起こす化合物とします。分子が不対電子を含む場合、不対電子はそれとペアになる別の電子を強引に“探し出す”ので、その分子は高 度な反応性を示すようになります。

細胞での代謝過程が通常に起こっている時に、細胞内で生産されたフリー・ラジカルの幾つかは分子状の酸素(O2)に由来 し、活性酸素種(ROS: Reactive Oxygen Species)と呼ばれています[6]。例をあげれば、スーパーオキシド(・O2‐)、ヒドロキシ・フ リー・ラジカル(・OH)、過酸化水素(H2O2)です。細胞内で通常に生じるROSの大部分は、エネル ギー産生において主要な役割を演じている細胞内小器官であるミトコンドリアで生じます[7]

フリー・ラジカルによる老化説に従えば、自然な代謝の過程で細胞内に生産されたROSは、手当たり次第にまた見境なく振る舞い、重要な細胞の構成 器官にダメージを与えます。例えば、他の不対電子を求めるうちに、ROSは細胞膜(脂質)や蛋白質やDNAを構成している分子を攻撃します[8]。細胞の構成器官に対するこのダメージは蓄積するので、ROSは老化のプロセスに有意に寄与するのかも知れません[9]

細胞は、ROSの多くの有害な効果に対抗するメカニズムを持っています。例えば、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)やカタラーゼという酵 素は、それぞれスーパーオキシドや過酸化水素というROSを駆除します[10]。細胞にはまた、グルタチオンやペルオキシダーゼやビダミンEとCのような付加的な酸化防止剤があります[11]。しかし、これらの防御システムは、細胞が生存するすべての期間にわたって、ROSから引き起こされるダメージのすべてを防ぐには不十分です。

最近、薬理学者たちのチームが、酵素類似物質を使用することで、細胞が生来持っている酸化防止剤の保護作用を増大させることにより、ROSによっ て引き起こされる老化効果を大きく減少させることができることを証明しました[12]。酵素類似物質(酵素の化学を模倣した合成化合物)は、元になった酵素と同じ化学反応を触媒したり、引き起こし たりします。言い換えれば、酵素類似物質は自然の酵素を模倣するのです。例えば、SOD/カタラーゼ酵素類似物質は、スーパーオキシドと過酸化水素の分 解を触媒します。研究対象として一群の線虫(シノラブディス・エレガンス、Caenorhabditis elegans)[13]にSOD/カタラーゼ酵素類似物質を作用させると、フリー・ラジカルによるダメージに対する付加的な防御によ り、平均寿命を44%延長することができることを、その薬理学者たちは見いだしました。その線虫についての研究は、老化過程におけるROSの役割を明ら かにする手助けをしたばかりではなく、人間の寿命でも“薬理学的な干渉”によって引き伸ばされたり、短縮されたりすることがあり得ることを示唆します[14]

研究者たちはまた、同じような方法によってミバエの寿命を約40%延長させることができました。酵素類似物質を使用する代わりに、細胞がもっと多 くのSODやカタラーゼを産生するように、科学者たちはミバエの遺伝子を操作しました[15]。そして、同様の結果が得られたのです。

SODとカタラーゼの活性レベルを変化させることが寿命に影響することのさらなる証拠が、ヒューストンのテキサス大学の研究者たちによる最近の研 究で見いだされました。これらの科学者たちは、SODを研究対象とすることにより、それらが選択的にガン細胞を殺すことができるかも知れないことを示し ました[16]

ROSに関するこれらの新しい発見は、神が人間を900年間生きるように設計して後、ノアの大洪水の時に人間の平均寿命を減らした一つの方法が、 細胞内のSODやカタラーゼの酵素表現のレベルを微妙に変化させたことであったかも知れないことを示唆します。

カロリー制限

カロリー制限は、研究者たちがある生物の寿命を延長するために発見したアプローチの一つです[17]。選択的に食物摂取を30‐70%制限することは、酵母から哺乳類に至るまでの広範囲の生物において、40%ま で寿命を延ばすことができます。何年もの間、科学者たちは、カロリー制限は代謝速度の減少を引き起こすことによってROS産生を減少させて、平均寿命を 引き伸ばすのだと考えてきました[18]。しかし、最近の研究は、カロリー制限がフリー・ラジカル機構とは別の生化学的メカニズムによって寿命の増加を 引き起こすことを、強く示唆しています。

研究対象として酵母を使用したマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは最近、その生化学的メカニズムを説明するために、このパズルの最 後の一片をはめ込みました[19][20]。染色体の中には、rRNA(訳注:ポリペプチド合成の座となるリボゾームRNAのこと)に対応して暗号 化された遺伝子があります。これらの遺伝子には、通常の細胞活性によって、染色体からそれ自身を切り取らせるというユニークな特徴があります。それか ら、それらの切り取られた遺伝子は、付加的染色体DNAサークル(EC)と呼ばれる別個の環状のDNA断片を形成します。それらは自己複製をし、蓄積 し、そして、生命の維持に絶対必要な酵素や他の細胞内の物質に対応する酵母の遺伝子と競合します。この理由のために、ECは細胞にとって毒性を持ち、酵 母の寿命を縮めます[21]

MITの研究者たちは、酵素Sir2がECの蓄積を減少させることにより、酵母の寿命を延長させることに重要な役割を果たしていることを見いだし ました。Sir2は人間を含めて生物界全体に見いだされています[22]。それは、細胞のエネルギー状態が低下した時に活性化されます。その低下は、カロリー制限という条件下で起こり ます[23]。Sir2が活性化されると、それは染色体を高度に濃縮させ、その染色体の中の遺伝子を沈静化させます[24][25]。染色体の遺伝子が沈静化すると、ECの産生は減少し、結果的に酵母の寿命が延長されます。Sir2は人 間においても見いだされていますので、酵母についてのこの結果は、人間の老化過程と明白で密接な関係があります。

遺伝子の沈静化と老化との関連は、簡単な比喩によって理解されます。過去30年間ずっと通常に運転された車は、各部品の消耗が激しいことでしょ う。しかし、同じような車でも毎日曜日に教会に出かけるためだけに運転された場合は、30年後でさえも真新しい状態のままでしょう。同様に、通常の消耗 を経験したDNA鎖は、毒性のあるECを生産して寿命を縮めます。しかし、酵素Sir2は染色体内の遺伝子を沈静化させ、DNAの消耗を制限し、ECの 形成を妨げることによって酵母の寿命を延長させるのです。

ROSとカロリー制限に関する作用は、創世記1章29-30節と関連があります。そこでは、神はノアの大洪水以前の人間に菜食主義を指図されまし た。菜食主義は、酸化防止剤の高いレベルでの消費を確実にするだけでなく、動物の肉に蓄積された毒素を摂取しないように守ってくれます。菜食主義はまた カロリー制限の手助けをします。というのは、野菜の摂取は同じ重さの肉の摂取よりもはるかに少ないカロリーで済むからです。菜食主義によって、神はカロ リー制限を利用して、大洪水以前の寿命を延長する手助けをすることもできたでしょう。

神が人間の寿命を変えるもうひとつの方法は、カロリー制限を模倣した遺伝子の突然変異によってです。コネチカット大学の研究者たちが行なった最近 の研究は、ミバエで実験を行ない、代謝に関連する遺伝子を無力化する突然変異を確認しました[26][27]。この遺伝子活性の消失は、代謝の効率を低下させます。代謝の不効率化は、生体が食物から効果的にエネル ギーを取り出すことがあまりできないことを意味します。これは、使用できるエネルギーを制限し、カロリー制限と類似した方式で、より長い寿命に導きま す。この突然変異の結果として、ミバエの寿命は二倍に延長されます。

ミバエの研究は、たった一つの遺伝子を変えることによって、神が人間の寿命をコントロールできたことを証明するものです。神がこの方法を使用され たとしても、また使用されなかったとしても、これは生存能力を高める単純な選択です。興味深いことには、ミバエによる他の研究によって明らかにされたこ とですが、多くの生物は死期を早めるように遺伝的にプログラムされているらしいのです。最近、科学者たちはもう一つの長寿に導く単一の遺伝子の突然変異 を発見しました。メトセラ(訳注:創世記5:27)遺伝子と呼ばれるこの遺伝子に突然変異が起こると、ミバエの寿命を延長させることが示されました。し かし、突然変異が起こらない時には、この遺伝子の機能は不明のままです[28][29]

テロメアの消失

テロメラーゼの活性を変えることは、神が人間の寿命を制御するためになし得たもう一つの方法です。テロメラーゼとは、染色体の中にあるDNA鎖の 末端であるテロメアの長さを維持する酵素複合体です[30]。テロメアは、染色体の安定性を維持します。人間は23対の染色体を持ちます。それぞれの染色体対の一方は母親 からのものであり、他方は父親からのものです。細胞分裂に先立って、それぞれの染色体は複写され、細胞分裂の後には親染色体と娘染色体は互いに分かれま す。

DNAの複製に際には、テロメラーゼはテロメアの長さを維持するように機能します。十分なテロメラーゼ活性がない場合、テロメアは細胞分裂が起こ るごとに連続的により短いものとなります。もしテロメアが消失するなら、染色体は安定性を失い、細胞の複製する能力が危うくされます。このようにして、 テロメラーゼ活性の減少とテロメアのDNAの消失は老化を引き起こします[31]

テロメアの長さは、健康の指標となります。そういうわけで、科学者たちは動物のクローンの健康を見積もるためにテロメアの長さを使用しています[32]。研究者たちは、テロメラーゼ活性を欠く培養した人間の細胞にテロメラーゼを導入することによって、寿命を延長 することができました[33]。本質的に不滅であると考えられるガン細胞は、高いテロメラーゼ活性のレベルを持っています[34]。最近の研究は、テロメアの長さと細胞の寿命の関係が以前考えられていたよりももっと複雑であることを示唆して います[35][36]。例えば、放射線レベルの上昇が有意にガン細胞を増加させている環境では、より高いテロメラーゼ活性は、 実際寿命を延長するのではなく、縮めることがあります。神は単にテロメラーゼ活性を変化させることによって人間の寿命を変えることがおできなったことで しょう。あるいは、人間の平均寿命を短縮させるという状況にはなるのですが、人間に対するガンの被害が最小(最小限)になるように、神は放射線レベルの 増加(以下のベラ星の超新星爆発についての考察を参照のこと)を、テロメラーゼ活性を減少させることで補われたのかも知れません。

ゲノムのサイズ

英国のグラスゴー大学の研究者たちは、最近ゲノムのサイズと寿命との有意な相互関係を明らかにしました[37]。ゲノムという専門用語は、生体が持つDNAの全構造のことです。ゲノムは、蛋白質と組織としてのRNA分子を 作るために細胞が必要とする情報をコード化した遺伝子と非コードDNAから成ります。

グラスゴー大学のチームは、67種の鳥を調査し、ゲノムのサイズが大きいほど寿命が長くなるという関係を見いだしました。鳥は、そのゲノムのサイ ズと寿命のデータが豊富であるため、寿命に対するゲノムのサイズの影響を調べる理想的なモデルです。より大きなサイズを持つゲノムがより長い寿命に導く 理由には明白な説明はありませんが、この研究をしている科学者たちは、より大きなゲノムは細胞周期(細胞分裂の間隔)を遅らせるのかも知れないと考えて います。細胞周期が完了(細胞分裂の最後)する前に、細胞のDNAはゲノムの対をなすコピーを産生するために複写されなくてはなりません。ゲノムが長く なればなるほど、DNAの複写が完了するにはより長い時間が掛かります。このより長く掛かる複写過程が、結果としてより長い細胞周期を生じ、結果的には より長い寿命をもたらすのです。

ゲノムのサイズと寿命との相関関係は、ヒト・ゲノム計画(HGP:Human Genome Project)と関連して、好奇心をそそらされます。ヒトは、30億の塩基対(遺伝子の文字)という大きなゲノムを持っています。しかし、HGPの最 初の見積もりは、ヒトのゲノムはたったの28,000から120,000個の遺伝子しか持たないというものでした[38]。このことは、非コードDNAがヒトのゲノムの約97%を構成していることを意味します。創世記5章と6章を考 慮するなら、大量の非コードDNAを含むヒト・ゲノムの大きなサイズが、人間に対する神の元々の意図(訳注:約900歳という寿命)を反映している可能 性が少なからずあるということを、推測させられます。神は、900歳という寿命を許すために、大きなサイズのヒト・ゲノムを設計されたのかも知れませ ん。この考えに従えば、非コードDNAは、ある時には決定的な機能を果たしたかも知れません。恐らく、神は人間の平均寿命を制限することを、天文学的出 来事や生化学的変化を通してなさったので、大洪水の時にヒト・ゲノムには手を付けないまま残されたのでしょう。それゆえ、今日観察されるヒト・ゲノムは 大洪水を経てもそのまま持ち越された創造の摂理であり、人々のより長い寿命を神が意図された時があったことを示す、証拠であると考えられるかも知れません。

あるいは、ヒト・ゲノムは、大洪水以前にはもっと大きかったのかも知れません。相対的に大きな身体と高レベルの活動性を考慮すると、ヒトは他種よ りも著しく長く生きます。身体のサイズと活動性のレベルの組み合わせそれ自体が、ヒトのゲノムの大きなサイズを説明しているのかも知れません。ですか ら、大洪水以前の寿命は、より大きなゲノムを必要としたのかも知れません。

ベラ超新星の爆発

大洪水以前の人間の長い寿命を短縮するために、神がどのような行動を取り得たのかを部分的に説明するのが、ある大きな天文学的出来事です。宇宙線 は、ヒトの平均寿命を制限する主要な要素の一つです。地球に降り注ぐ宇宙線は、ずっと一定であったわけではありません。事実、地球に降り注ぐ致死的な宇 宙線のほとんどは、ベラ超新星という、かなり最近に地球付近(1,300光年の距離)で起こった出来事から来るものです。(超新星とは、恒星内の物質の ほとんどが爆発するという、稀にしか起こらない天体現象です。)約20,000年前から30,000年前(大洪水の時期とほぼ一致する)に、ベラ超新星 の爆発が起こりました[39][40]

ベラ超新星以前には、現在の致死的な宇宙線レベルのほんの一部のみが地球に降り注いでいました。これらのより低い放射線の条件下では(補足的な生 化学的な調整も伴って)、900歳までの寿命が可能であったのかも知れません。ベラ超新星の爆発の後、地球に静かに降り注ぐようになった、より高いレベ ルの放射線は、寿命を短縮させることに有意な役割を演じていると、科学者たちは認識しています。また、ベラ超新星のような有意な放射線暴露は、創世記 11章に報告されている900年から120年という段階的で指数関数的な寿命の短縮を説明できるかも知れません。

科学的信憑性の評価

老化に関する生物学と生化学の発展は著しいものがありました。同時に、それらは、老化過程が本当に複雑であることを明らかにしました。それについ て研究されたり発見されたりすべきことが、まだ多く残されています。最近の発見は、老化が宇宙線や細胞の化学における微妙な変化によって起こりうること を明らかにしています。これらの変化の微細な差異が老化の原因であるとの前提で、近い将来に薬物投与や食事療法によって老化のプロセスを遅くすることが できるだろうと、研究者たちは希望と自信を持っています。

科学者たちが虫や酵母やミバエのような特定の生物の寿命を変化させることに成功したり、生化学的な操作によって人間の平均寿命を増加させることに 可能性が出たりしたことは、創世記5章に記録されている長い寿命に科学的な説得力を与えます。有限な知識と能力しか持たない人間が寿命を変化させること ができるのなら、神ならどれほどの規模でそうすることがおできになることでしょうか。神は長い寿命を可能とするために、人間の生化学を微妙に変化させる 四つの方法のうちの一つ、あるいはそれ以上を利用することがおできになったことでしょう。人間の寿命を短縮させるために、神はベラ超新星の爆発や他の天 文学的な出来事を、補足的な生化学的な変化と組み合わせて、利用することもおできなったことでしょう。

神がどのようにして人間の寿命を変化させたのかは、正確なことは誰も知りません。しかし、老化の生化学における最近の発見は、聖書、特に創世記5 章と6章の信憑性を支持する事例として確立されつつあります。老化の過程の理解は、これからますます進んでいくことでしょう。老化の内分泌学とホルモン 制御、あるいはウェルナー症候群(成人になる前に老化が起こる障害)の解明において、さらなる発展が予想されます[41][42][43][44]。老化の生化学における発見は、ここで取り上げたものもそれ以外のものも含めて、聖書の信憑性を支持し続 けるものであると、確信と期待をもって言うことができます。

なぜ寿命は短縮されたのか

  ヒュー・ロス

これまでの記述で紹介された論説には、神が無作為に初期の人間の寿命を決められたとか、神は単に自然災害に対処するために寿命を短縮させたと示唆 するものは何もありませんでした。むしろ、創世記6章3節は、神は意図的に人間の寿命を短縮させるために行動されたと述べており、創世記6章5節と11 節は、大洪水時の寿命の短縮がある霊的な目的を果たしたことを暗示しています。

そもそも、神はなぜ長い寿命を許されたのでしょうか。人間の歴史の初期における長い平均寿命は、神のあわれみと配慮を反映しています。長寿は、人 間のテクノロジーや文明化が急速に出現することを可能にしました。900年を生きることは、新発見やテクノロジーの発展や洗練された技術的な業績のため に、あるいは次の世代に引き継がれるべきあらゆる知識を伝えるために十分な機会を人々に与えます。このような条件では、比較的に少ない世代で、文明化は 劇的に進展します。

より短い人間の寿命の有利な点は、悪の拡大を制限するようにそれが作用することです。たった一人の並外れて邪悪な人は、900年が経過する中で、 莫大な数の正しい人々の影響力を傷つけたり、破壊したり、あるいは制限したりすることができます。さらに、邪悪な人々は、他の邪悪な人々よりも正しい 人々の方がより容易に、より安全に破滅させられることを知っています。そのような長い寿命がもたらす影響を総括すると、正しい人々が滅ぼされ、邪悪な 人々が生き残る傾向になります。長期にわたると、人口のバランスは邪悪な人々に傾き、正しい人々はほんのわずか残るのみとなります。あわれみ深くも、約 120年に人間の寿命を縮めることによって、神は悪の拡大を制限し、大洪水後の社会において正義が確実に存在するようにされたのです。

テロメアの消失の項ですでに指摘されたように、細胞内のテロメラーゼ活性の量は、細胞の寿命を短くしたり、長くしたりできます。細胞内のテロメ ラーゼ活性を制限することは、正常な細胞でもガン細胞でも寿命を短縮します。もしテロメラーゼの活性レベルが実際より高いものであったなら、ガンは人間 の死因の第一位にすぐにでもなることでしょう。こういうわけで、ガンの成長を制限し、人間への被害を最小限にすることによって、神は再び人類へのご自身 のあわれみを示しておられます。

創世記の洪水以前の時代における長い寿命は、今日の人々に有益な教訓を与えてくれます。多くの人々は、「人生はあまりにも短い。もし、あと数年で も生きられたなら、人生はより良きものになるだろうに」と考えているようです。大洪水直前の時代における人間の状況は、逆のことを示しています。それ は、人々は短い寿命の方がずっと良い状態になることを思い起こさせてくれます。神は、神を認識して選択する(あるいは拒絶する)ことができるほどに長 く、その運命を全うできるほどに長く、日々新たにされるという信仰の訓練を受けられるほどに長く、人々が地上に生きることを許しておられます。しかし、 なすべき奉仕や訓練が完成したなら、クリスチャンはこの地上で可能などんな人生よりも、はるかにすばらしくて祝福された人生に移ることが許されています (。コリント2:9を参照)。それゆえに、クリスチャンは、天国で賞を受けるための人生の競争を神が短縮してくださったことを、喜ぶことができるので す。

専門用語の説明

  • 塩基対……一列に並んだDNA鎖の中で、向かい合った二つの鎖状分子(ストランド)を結ぶ二つのサ ブユニット間の特定の結合。塩基対は、遺伝情報の最も根本的な単位としての役割を持ちます。それらは、遺伝言語のアルファベットです。遺伝情報は、 DNA分子の塩基対の特定の順列によって形成されます。
  • シノラブディス・エレガンスCaenorhabditis elegans……一般に見られる線虫。特に、複雑な多細胞生物における生化学的、また生物学的な過程を研究するための実験用生物として 用いられる線虫。
  • カロリー制限……食物摂取の劇的な削減を含むモデル生物の寿命を延長させる方法。
  • カタラーゼ……過酸化水素を水に変換する酵素。この酵素は、細胞の抗酸化防御機構の一部を担っています。
  • 細胞周期……細胞が成長し、また細胞分裂のために準備するという、繰り返される規則正しい順序。細胞周期は また、細胞分裂で開始され、そしてそれで完結します。
  • 細胞内代謝……細胞内に起こっている化学的な反応と過程のすべて。
  • DNA (デオキシリボ核酸)……より小さな分子を、先頭から末端へと連続的に結合することによって形成した複雑な鎖状分子。DNA鎖を形成 する小さな分子の順列が、細胞の蛋白質の産生に必要な情報を含みます。
  • 内分泌学……内分泌腺によって産生される内分泌物や内分泌腺そのものを研究する科学的な分野。また、内分泌 系と関連する病理学や生体全体に対する内分泌の生理的な効果にも関心を持ちます。
  • 染色体外サークル(Extrachromosal circles, ECs)……直列に繰り返されるrRNAの遺伝子に作用する、特定の酵素の副産物として産生されたDNAの小さな円形の断片。酵母内の染 色体外サークルの存在は、老化と関連付けられてきました。
  • フリー・ラジカル……電子配置の一部としての不対電子を持つ化学種。
  • ゲノム……遺伝子と非コードDNAを含む生物の全DNA構造。
  • グルタチオン……細胞の抗酸化防御機構に参画する細胞内に見出される化合物。
  • ヒト・ゲノム・プロジェクト……ヒト・ゲノムの完全なDNAの塩基配列を割り出して、ヒト・ゲノムの機能的 な機構の特性を解明するというゴールを目指した多数の研究所を含む国際的なプロジェクト。
  • ミトコンドリア……細胞内での用途のためにエネルギーを産生する細胞内小器官。
  • 細胞小器官……特定の機能を担う細胞内の生体膜と結合した構造。
  • ペルオキシダーゼ……細胞の抗酸化防御システムの一部としての役割を担う酵素。
  • 活性酸素種……化学的に分子状酸素に由来する不安定で、高度な活性を持つ化合物。
  • 老化……年を取ること。生存と再生のために必要とされる生理学的な機能の時間相関的な喪失。
  • Sir2……カロリー制限をしている間、遺伝子を沈静化させる活性を持つ蛋白質。
  • 超新星……爆発の結果として、突然に極めて強く輝き始める星。それは、新星よりも何桁も強く輝く。
  • スーパーオキシド・ジスムターゼ……スーパーオキシド・イオン(・O2‐)を過酸化水素に変換する酵素。この酵素は、細胞の抗酸化防御システムの一部を担う。
  • テロメア……染色体の末端か、先端に位置するDNAの反復する並び。テロメアは染色体の安定性を維持する。
  • ウェルナー症候群……遺伝的な障害で、成人早老症とも呼ばれる。正常な幼児期、10代での成長の停止、10 代末期か青年初期での早過ぎる老化を特徴とします。

引用文献

1 Simon Melov et al., “Extension of Life Span with Superoxide Dismutase/Catalase Mimetics,” Science289 (2000), 1567-69.

2 Judith Campisi, “Aging, Chromatin, and Food Restriction―Connecting the Dots,” Science289 (2000), 2062-63.

3“Science Switched Sides: Part 1,” Facts for Faith1 (Q1 2000), 29.(和訳あり)

4 Hugh Ross, The Genesis Question: Scientific Advances and the Accuracy of Genesis(Colorado Springs: NavPress, 1998), 119-21. (和訳あり)

5 Toren Finkel and Nikki J. Holbrook, “Oxidants, Oxidative Stress and the Biology of Aging,” Nature408 (2000), 239-47.

6 Sandeep Raha and Brian H. Robinson, “Mitochondria, Oxygen Free-Radicals, Disease and Ageing,” Trends in Biochemistry25 (2000): 502-08.

7 Raha and Robinson, 502-08.

8 Robert Arking, The Biology of Aging, 2d ed. (Sunderland, MA: Sinauer Associates, 1998), 398-414.

9 Finkel and Holbrook, 239-47.

10 Lubert Stryer, Biochemistry, 3d ed. (New York: W. H. Freeman, 1988), 422.

11 Arking, 401-03.

12 Melov et al., 1567-69.

13 奇妙な話ですが、老化の研究にモデル系として使用された酵母や線虫やミバエは、人間の老化のメカニズムを正確に反 映しています。それは、真核生物(核と細胞内膜構造を持つ複雑な細胞からなる、単細胞、および多細胞生物)の生化学の根本的な単位をそれらが持つためで す。

14 Melov et al., 1567-69.

15 Raha and Robinson, 502-08.

16 Peng Huang et al., “Superoxide Dismutase as a Target for the Selective Killing of Cancer Cells,” Science407 (2000), 390-95.

17 Arking, 313-27.

18 Leonard Guarente and Cynthia Kenyon, “Genetic Pathways that Regulate Ageing in Model Organisms,” Nature408 (2000), 255-62.

19 Su-Ju Lin et al., “Requirement of NAD and SIR2for Life Span Extension by Calorie Restriction in Saccharomyces cerevisiae,” Science289 (2000), 2126-28.

20 Campisi, 2062-63.

21 David A. Sinclair and Leonard Guarente, “Extrachromosomal rDNA Circles―A Cause of Aging in Yeast,” Cell91 (1997), 1033-42.

22 Jeffrey S. Smith et al., “A Phylogenetically Conserved NAD+-Dependent Protein Deacetylase Activity in the Sir2 Protein Family,” Proceedings of the National Academy of Sciences, USA97 (2000): 6658-63.

23 Su-Ju Lin et al., 2126-28.

24 Shin-ichiro Imai et al., “Transcriptional Silencing and Longevity Protein SIR2 is an NAD-Dependent Histone Deacetylase,” Nature403 (2000), 795-800.

25 Joseph Landry et al., “The Silencing Protein Sir2 and Its Homologs are NAD-Dependent Protein Deacetylases,” Proceedings of the National Academy of Sciences, USA97 (2000): 5807-11.

26 Elizabeth Pennisi, “Old Flies May Hold Secrets of Aging,” Science290 (2000), 2048.

27 Blanka Rogina et al., “Extended Life Span Conferred by Contransporter Gene Mutations in Drosophila,” Science290 (2000), 2137-40.

28 Elizabeth Pennisi, “Single Gene Controls Fruit Fly Life Span,” Science282 (1998), 856.

29 Yi-Jyun Lin et al., “Extended Life Span and Stress Resistance in DrosophilaMutant methuselah,” Science282 (1998), 943-46.

30 Alan G. Atherly, Jack R. Girton and John F. McDonald, The Science of Genetics(Fort Worth: Saunders College, 1999), 302-03.

31 Arking, 460-64.

32 For example see: Teruhiko Wakayama et al., “Cloning of Mice to Six Generations,” Nature407 (2000), 318-19.

33 Andrea G. Bodnar et al., “Extension of Life-Span by Production of Telomerase into Normal Human Cells,” Science279 (1998), 349-52.

34 Douglas Hanahan, “Benefits of Bad Telomeres,” Nature406 (2000), 573-74.

35 Steven E. Artandi et al., “Telomere Dysfunction Promotes Non-Reciprocal Translocations and Epithelial Concerns in Mice,” Nature406 (2000), 641-45.

36 Elizabeth H. Blackburn, “Telomere States and Cell Fates,” Nature408 (2000), 53-56.

37 Pat Monaghan and Neil B. Metcalfe, “Genome Size and Longevity,” Trends in Genetics16 (2000), 331-32.

38 Elizabeth Pennisi, “And the Gene Number Is …?” Science288 (2000), 1146-47.

39 B. Aschenback et al., “Discovery of Explosion Fragments Outside the Vela Supernova Remnant Shock-Wave Boundary,” Nature373 (1995), 588.

40 A. G. Lyne et al., “Very Low Braking Index for the Vela Pulsar,” Nature381 (1996), 497-589.

41 Koutarou D. Kimura et al., “ daf-2, an Insulin Receptor-Like Gene that Regulates Longevity and Diapause in Caenorhabditis elegans,” Science277 (1997), 942-45.

42 Kui Lin et al., “daf-16: an HNF-3/forkhead Family Member That Can Function to Double the Life-Span of Caenorhabditis elegans,” Science278 (1997), 1319-22.

43 Catherine A. Wolkow et al., “Regulation of C. elegansLife-Span by Insulinlike Signaling in the Nervous System,” Science290 (2000), 147-50.

44 Junko Oshima, “The Werner Syndrome Protein: An Update,” Bioessays22 (2000): 894-901.

Updated: 2006 年 11 月 02 日,04:45 午後

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