人間とチンパンジーは異なる

Fazale R. Rana Connections Vol. 3 (2001) No. 3, 1

松崎英高(箱崎キリスト福音教会牧師)、ティモシー・ボイル(つくばクリスチャンセンター宣教師、物理学学士号、神学博士)共訳

人間とチンパンジーは、99%の遺伝子の類似性を共有しています。それで、人間とチンパンジーは共通の祖先に由来するという、表面的には説得力が あり、最も一般的になされる議論があります[1]。チンパンジーと人間が免疫学的に類似した性質を持つタンパク質を共有しているという事実は、さらなる支持を与える ように思えます。しかし、遺伝的類似性は、これらの特定の事実が提案するほどには顕著なものでないらしいのです。また、遺伝的な類似性は、必ずしも自然 過程による進化に有利な主張でもありません。

人間とチンパンジーのDNAのゲノム全体が比較されたわけでは決してないし、現在のところそれは不可能です。人間のゲノムの配列は決定されました が、チンパンジーのゲノムについての作業は、本当の意味ではまだこれから始めなければならない段階にあります[2]。全てのDNA中の塩基配列を全体的に比較することが可能となるまでは、99%の類似性を主張できる保障などはない と見なされるべきなのです。ゲノム全体の解析により、大型の尾なし猿と人間との間にさらに類似性が見出されることは疑いないでしょうが、同時に重要な生 化学的な違いが明らかになることも確かにでしょう。

最近、ドイツのマックス・プランク研究所とカルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の科学者たちが別個に行なった研究には、これらの予期さ れる重要な違いが発見される兆しがあります。これらの研究者たちは、人間とチンパンジーの脳の生化学に、微細ではあるが有意な差異を発見しました。

ドイツのグループは最近、人間の脳組織内の遺伝子表現[3]はチンパンジーやリーサスザル(訳注:北インド産の短尾種)のものとは著しく異なっているが、チンパンジーとリーサ スザルでは殆ど同一の遺伝子表現であることを確かめました[4]。それとは対照的に、チンパンジーとリーサスザルと人間において、肝臓と血液の遺伝子表現はかなりの類似性を示しま す。そのチームの主任科学者によると、"これら三つの組織の中で、遺伝子活性のパターンを加速する人間の脳は、本当に特別であるように見えます。[5]"

UCSDの科学者たちは、人間とチンパンジーとの間の脳の化学でのもう一つの重要な違いが確かに存在することを確認しました。組織細胞の表面上に見出さ れる糖が、両者では違うのです[6] [7] [8] [9] [10]

チンパンジーやゴリラやオランウータンや他の哺乳類は、細胞表面にあるシアル化糖(sialic sugar)であるN-グルコシルノイラミン酸(GC-neur)を生産します。しかし、人間はこの糖を生産しません。GC-neurは、ある病原体の 結合サイトとして働きます。GC-neurの欠落は、免疫学的に人間を尾なし猿や他の哺乳類とは別個なものとするのです。

尾なし猿や他の哺乳類では、GC-neurは、生体の全ての組織において豊富にありますが、脳と中枢神経系では最も低いレベルで存在します。人間 におけるGC-neurの欠落、すなわち、脳組織でのGC-neurの特異的な欠落は、興味深いことにGC-neurの欠落と発達した脳の能力との間に 相関関係の可能性を考えさせます。この仮説をテストするために、実験がなされています[11]

生命を創造者の働きと見なす者にとって、遺伝的な類似性は障害となりません。事実、人間と大型の尾なし猿は余りにも多くの解剖学的及び生理学的特 徴を共有しているので、遺伝的類似性は予測されることであったでしょう。遺伝子によって暗号化されたタンパク質は、生体を構成するために使われる建築用 ブロックです。身体的な類似性を共有するように生物を設計された創造者は、類似した原料物質からそれらをお造りにならない理由があるでしょうか。生物界 を貫く生化学的一貫性は、偶然による成り立ちに反対し、神による設計を支持するのに有利です。チンパンジーと人間の場合が証明するように、各生物間の違 いを決定する(少なくても一次近似として)のは、建築ブロック(遺伝子)そのものではなく、遺伝子による産物の量とその組み合わせなのです。人間とチン パンジーを比較する生化学についてもっと多くが知られるようになったなら、科学者たちが神による設計について、また人間と他の被造物における設計上の違 いについてもっと精巧で重要な指標となるものを見出すことは疑いのないことでしょう。

引用文献

1 Mary-Claire King and A. C. Wilson, "Evolution at Two Levels in Humans and Chimpanzees," Science 188 (1975): 107-16

2 Dennis Normile, "Genomics: Chimp Sequencing Crawls Forward," Science 291 (2001): 2297

3 遺伝子表現とは、特定の組織や器官などを作り上げる細胞の全体的な遺伝子活性のことを言う。遺伝子表現は、スイッチを 入れられた遺伝子(蛋白質の生成を指示する)とスイッチを切られた遺伝子の明細目録と考えられている。遺伝子表現はまた、遺伝子活性の結果として生成さ れた、異なる蛋白質の量としても描かれる。

4 Dennis Normile, "Comparative Genomics: Gene Expression Differs in Human and Chimp Brains," Science292 (2001): 44-45

5 Normile, "Comparative Genomics," 44-45

6 Normile, "Comparative Genomics," 44-45

7 Joseph Alper, "Sugar separates Humans from Apes," Science 291 (2001): 2340

8 Elaine A. Muchmore, Sandra Diaz, and Ajit Varki, "A Structural Difference between the Cell Surfaces of Humans and the Great Apes," American Journal of Physical Anthropology107 (1998): 187-98

9 Hsun-Hua Chou et al., "A Mutation in Human CMP-Sialic Acid Hydroxylase Occurred after the Home-Pan Divergence," Proceedings of National Academy of Science, USA 95 (1998): 11751-56 10 Els C. M. Brinkman-Vander Linden et al., "Loss of N-Glycolylneuramic Acid in Human Evolution," Journal of Biological Chemistry275 (2000): 8633-40 11 Alper, 2340

Updated: 2006 年 11 月 02 日,04:31 午後

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